・・・と「隣の大将」とを上野駅で迎える場面は、どうも少し灰汁が強すぎてあまり愉快でない。しかし、マダムもろ子の家の応接間で堅くなっていると前面の食堂の扉がすうと両方に開いて美しく飾られたテーブルが見える、あの部分の「呼吸」が非常によくできている。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 爺さんは濃い眉毛を動かしながら、「それはその秋山というのが○○大将の婿さんでね。この人がなかなか出来た人で、まだ少尉でいる時分に、○○大将のところへ出入していたものと見える。処が大将の孃さまの綾子さんというのが、この秋山少尉に目をつけ・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・ 御大葬と乃木大将の記事で、都下で発行するあらゆる新聞の紙面が埋まったのは、それから一日おいて次の朝の出来事である。 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・、比較的忠実に読んだ人さへが、単なる英雄主義者として、反キリストや反道徳の痛快なヒーローとして、単純な感激性で崇拝して居たこと、あたかも大正期の文壇でトルストイやドストイェフスキイやを、単なる救世軍の大将として、白樺派の人々が崇拝して居たに・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・普通に子供の画く大将絵も画けなかった。この頃になって彩色の妙味を悟ったので、彩色絵を画いて見たい、と戯れにいったら、不折君が早速絵具を持って来てくれたのは去年の夏であったろう。けれどもそれも棚にあげたままで忘れて居た。秋になって病気もやや薄・・・ 正岡子規 「画」
・・・それなら僕はもう大将になったんですか」 おっかさんもうれしそうに、 「まあそうです」と申しました。 ホモイが悦んで踊りあがりました。 「うまいぞ。うまいぞ。もうみんな僕のてしたなんだ。狐なんかもうこわくもなんともないや。おっ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・という親心と息子の心を吸収して、百姓の息子でも、軍人ならば大将にだって成れる道として、軍国日本に軍人の道が開かれていたのである。日本の大学は、人類の理性と学問に関するアカデミアであるより以前に、官僚と学閥の悪歴を重ねた。見えない半面で軍国主・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・殿は今日の総大将じゃ。それがしがお先をいたします」 徳右衛門は戸をがらりとあけて飛び込んだ。待ち構えていた市太夫の槍に、徳右衛門は右の目をつかれてよろよろと数馬に倒れかかった。「邪魔じゃ」数馬は徳右衛門を押し退けて進んだ。市太夫、五・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・の一言で聞き捨て、見捨て、さて陣鉦や太鼓に急き立てられて修羅の街へ出かければ、山奥の青苔が褥となッたり、河岸の小砂利が襖となッたり、その内に……敵が……そら、太鼓が……右左に大将の下知が……そこで命がなくなッて、跡は野原でこのありさまだ。死・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・にある「我国をほろぼし我家をやぶる大将」の四類型をあげてみよう。 第一は、ばかなる大将、鈍過ぎたる大将である。ここでばかというのは智能が足りないということではない。才能すぐれ、意志強く、武芸も人にまさっている、というような人でも、ばかな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫