・・・俺は、お前が菜っ葉を着て、ブル達の間を全で大臣のような顔をして、恥しがりもしないで歩いていたから、附けて行ったのさ、誰にでも打っつかったら、それこさ一度で取っ捕まっちまわあな」「お前はどう思う。俺たちが何故死んじまわないんだろうと不思議・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・之を政治上に喩えて言わんに、妻が内の家事を治むるは内務大臣の如く、夫が戸外の経営に当るは外務大臣の如し。両大臣は共に一国の国事経営を負担する者にして、其官名に内外の別こそあれ、身分には軽重を見ず。然らば則ち女大学の夫に仕え云々の文は、内務大・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 内閣にしばしば大臣の進退あり、諸省府に時々官員の黜陟あり。いずれも皆、その局に限りてやむをえざるの情実に出でたることならん、珍しからぬことなれば、その得失を評するにも及ばず。余輩がとくにここに論ぜざるべからざるものは、かの改進者流の中・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・を挙ぐれば河童の恋する宿や夏の月湖へ富士を戻すや五月雨名月や兎のわたる諏訪の湖指南車を胡地に引き去る霞かな滝口に燈を呼ぶ声や春の雨白梅や墨芳ばしき鴻臚館宗鑑に葛水たまふ大臣かな実方の長櫃通る夏野かな朝・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・けれども、また亡くなった鷲の大臣が持っていた時は、大噴火があって大臣が鳥の避難のために、あちこちさしずをして歩いている間に、この玉が山ほどある石に打たれたり、まっかな熔岩に流されたりしても、いっこうきずも曇りもつかないでかえって前よりも美し・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
学者のアラムハラドはある年十一人の子を教えておりました。 みんな立派なうちの子どもらばかりでした。 王さまのすぐ下の裁判官の子もありましたし農商の大臣の子も居ました。また毎年じぶんの土地から十石の香油さえ穫る長者の・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・知事や大臣にはなれなくても、せめて軍人になれば出世は力次第だから。」という親心と息子の心を吸収して、百姓の息子でも、軍人ならば大将にだって成れる道として、軍国日本に軍人の道が開かれていたのである。日本の大学は、人類の理性と学問に関するアカデ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・への具体的な答えには、農林大臣が米の専売案を語り、それと全く反対に農林省の下級官吏は結束して大会をもち、食糧の人民管理を要求し、戦争犯罪人糺弾の人民投票をやっているという今日の事実さえも、包括されなければならないのである。責任を問うための警・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・ 三間打ち抜いて、ぎっしり客を詰め込んだ宴会も、存外静かに済んで、農商務大臣、大学総長、理科大学長なんぞが席を起たれた跡は、方々に群をなして女中達とふざけていた人々も、一人帰り二人帰って、いつの間にか広間がひっそりして来た。 もう十・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ためにする気持ちが全然なければ、相手が金持ちであろうと貧乏人であろうと、大臣であろうと小使であろうと、少しも変わりはない。――ちょうどこの言葉に現わされているような態度を、私は実際に目の前に見るように感じた。 滝田樗陰のことで思い出・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫