・・・ところが買って来たものの、屠殺の方法が判らんちゅう訳で、首の静脈を切れちゅう者もあれば眉間を棍棒で撲るとええちゅう訳で、夜更けの焼跡に引き出した件の牛を囲んで隣組一同が、そのウ、わいわい大騒ぎしている所へ、夜警の巡査が通り掛って一同をひっく・・・ 織田作之助 「世相」
・・・このままでは引合わない、莫迦な眼を見たのはあたいだけだからと云うそんな安子の肚の底には、皆が大騒ぎしている「あの事」って一体どんなことなのかしらといういたずらな好奇心があった。 今川橋のお針の師匠の家には荒木という髪の毛の長い学生が下宿・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・二切りめが済むと座敷はにわかににぎやかになって、煙草を吸うやら便所に立つやら大騒ぎ。『お梅。』母親がきょろきょろと見回すと、『なに。』お梅は大きな声で返事をした。『どこにいたのさっきから。』『ここで聴いていたのよ、そして頭が・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・そんなに背延びしてはずるいと言い出すものがありもっと頭を平らにしてなどと言うものがあって、家じゅうのものがみんなで大騒ぎしながら、だれが何分延びたというしるしを鉛筆で柱の上に記しつけて置いた。だれの戯れから始まったともなく、もう幾つとなく細・・・ 島崎藤村 「嵐」
十四、五になる大概の家の娘がそうであるように、袖子もその年頃になってみたら、人形のことなぞは次第に忘れたようになった。 人形に着せる着物だ襦袢だと言って大騒ぎした頃の袖子は、いくつそのために小さな着物を造り、いくつ小さ・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・「いいえ、もうただ今お長をやりましたから大騒ぎをして帰っていらっしゃいますわ」「さっき私は誰もいないのだと思って、一人でずんずんここへ上ってきたんでした」と言って、お長が手枕の真似をしたことを胸に浮べる。女の人は少し頭痛がしたので奥・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ おでんやでも、大騒ぎであった。モオニングの紳士が、ひどくいい機嫌ではいって来て、「やあ、諸君、おめでとう!」と言った。 兄も笑顔で、その紳士を迎えた。その紳士は、御誕生のことを聞くや、すぐさまモオニングを着て、近所にお礼まわり・・・ 太宰治 「一燈」
・・・障子の破れがハタハタ囁き、夜もよく眠れず、私は落ちつかぬ気持で一日一ぱい火燵にしがみついて、仕事はなんにも出来ず、腐りきっていたら、こんどは宿のすぐ前の空地に見世物小屋がかかってドンジャンドンジャンの大騒ぎをはじめた。悪い時に私はやって来た・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・そうすると大騒ぎになった。電車に乗っていた連中が総立ちになる。二人はおれを追い掛けに飛んで下りる。一人は車掌に談判する。今二人は運転手に談判する。車の屋根に乗っている連中は、蝙蝠傘や帽やハンケチを振っておれを呼ぶ。反対の方角から来た電車も留・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・どうかすると自分の脚の上へ来るのでキャッ/\と大騒ぎをする。こんな坊チャマを膝へ乗せた父上も大概な事ではなかったらしいが、椎茸もトンダ目に会ったものだ。この椎茸少々宜しからぬ事があって途中から免職になったのはよかったが、その後任の爺さんがド・・・ 寺田寅彦 「車」
出典:青空文庫