・・・空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二、三個の人が見われた。鉄漿溝は泡立ッたまま凍ッて、大音寺前の・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森には烏が噪ぎ始めた。大鷲神社の傍の田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二三個の人が現われた。鉄漿溝は泡立ッたまま凍ッて、大音寺前の温・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・こいつにも余り福をやりたくないのであるが、しかし大鷲大明神なかなか慾ばって居るからこれくらいの熊手を買うてもろうた義理に少しは掻き込んでやるかもしれない。……………仲町を左へ曲って雪見橋へ出ると出あいがしらに、三十四、五の、丸髷に結うた、栗・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・大きな声で倒れるまで叫んで駈けまわりたい。大鷲の双翼を我に与えよ」 けれども、これ等の断片的の文句よりは、どうかして出されずにあった、或る人への手紙が、一番よく彼女の云いたかったことを云っているように思われる。青い小形の紙に、Aさん、私・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫