・・・ 緑雨の眼と唇辺に泛べる“Sneer”の表情は天下一品であった。能く見ると余り好い男振ではなかったが、この“Sneer”が髯のない細面に漲ると俄に活き活きと引立って来て、人に由ては小憎らしくも思い、気障にも見えたろうが、緑雨の千両は実に・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・、広津柳浪の「天下一品」、泉鏡花の「外国軍事通信員」等を見ても、その水っぽさと、空想でこしらえあげたあとはかくすべくもない。だが、それらの一つ一つの各作家に於いても、あまりに重要でない作品に対して吟味を与えることは、恐らくそう必要ではなかろ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・そこで天下の窯器を論ずる者は、唐氏凝菴の定鼎を以て、海内第一、天下一品とすることに定まってしまった。実際無類絶好の奇宝であり、そして一見した者と一見もせぬ者とに論なく、衆口嘖しゅうこうさくさくとしていい伝え聞伝えて羨涎を垂れるところのもので・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・世阿弥の能楽に関する著書など、いわゆる文章としてはずいぶん奇妙なものであるが、しかしまた実に天下一品の名文だと思うのである。 それで、考え方によっては科学というものは結局言葉であり文章である。文章の拙劣な科学的名著というのは意味をなさな・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫