・・・ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知った時には、実際ヴォルテーアの謳ったように、神の声と共に渾沌は消え、闇の中に隠れた自然の奥底はその帷帳を開かれて、玲瓏たる天界が目前に現・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・それで、ちょうど、ある弾丸の描く弾道はまた同時に他のすべての可能な弾道を代表するように、一遊星の軌道はまさしく天体引力の方則を代表するように、光源氏や葵の上の行動はまさしくその時代の男女の生活と心理の方則を代表するものとも考えられる。こうい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・また、一秒の十分の一というような短い時間でも天体観測の練習などしてみると、だんだんに長いものに思われてくるのである。 器械文明が発達すれば、精密なことは器械がしてくれるから人間はだんだん無器用になってもいいかというに、そうではなくて精密・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・古い話ではあるがティコ・ブラーヘの天体観測の結果は、幾度か非科学的な占筮の用にも供せられたのであろうが、結局は名工ケプレルの手によって整然たる太陽系の模型の製作に使われた。ニュートンはまたこのケプレルの作ったものを素材として、さらに偉大な彼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・事によると、このような人間の動きを人間の力でとめたりそらしたりするのは天体の運行を勝手にしようとするよりもいっそう難儀なことであるかもしれないのである。 また一方ではこういう話がある。ある遠い国の炭鉱では鉱山主が爆発防止の設備を怠って充・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 一秒時間に十八万六千マイルを走る光が一ヶ年かかって達する距離を単位にして測られるような莫大な距離をへだてて散布された天体の二つが偶然接近して新星の発現となる機会は、例えば釈迦の引いた譬喩の盲亀百年に一度大海から首を出して孔のあいた浮木・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・実際重力加速度gを定めるにはこのような直接の方法によらず、却って間接に振子の週期と長さから定め、空気の抵抗の影響は必要に応じて理論から計算した補正で除去する事が出来るのである。天体の影響などは云うに足らぬし、普通の場合ならば電気や磁気の影響・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・一本のマッチをすればその光は全宇宙に瀰漫してその光圧は天体の運動に幾分の変化を生じなければならぬはずである。少なくも吾人の科学に信拠すればそうなるはずである。また全天体の片隅で行われているあらゆる変化は必ず吾人の身辺にも幾分の影響を及ぼして・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・重力があって天体が運行して林檎が落ちるとばかり思っていたがこれは逆さまであった。英国の田舎である一つの林檎が落ちてから後に万有引力が生れたのであった。その引力がつい近頃になってドイツのあるユダヤ人の鉛筆の先で新しく改造された。 過去を定・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ジャングルへ迷い込んだっきりになるものが少くなく、それ等は磁石も天体測量も出来ず、ましてそれを食べるかつ節なんかは持ち合せない気の毒な場合が多数だそうです。隆治さんはああいういい子で、勇気もあり、忍耐も強く、責任感も大きいから、私達とすれば・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫