・・・その下にあるのは天工のように、石を積んだ築山である。築山の草はことごとく金糸線綉きんしせんしゅうとんの属ばかりだから、この頃のうそ寒にも凋れていない。窓の間には彫花の籠に、緑色の鸚鵡が飼ってある。その鸚鵡が僕を見ると、「今晩は」と云ったのも・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・まるで翡翠か青玉で彫刻した連珠形の玉鉾とでも云ったような実に美しい天工の妙に驚嘆した。たった二十倍の尺度の相違で何十年来毎日見馴れた世界がこんなにも変った別世界に見えるのである。ワンダーランドのアリスの冒険の一場面を想い出した。顕微鏡下の世・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執りし者のみ。日本の外には亜細亜諸国、西洋諸洲の歴史もほとんど無数にして、その間に・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫