・・・その人は立派な物理学の機械に優って、立派な天文台に優って、あるいは立派な学者に優って、価値のある魂を持っておったメリー・ライオンという女でありました。その生涯をことごとく述べることは今ここではできませぬが、この女史が自分の女生徒に遺言した言・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 完全な材料はなかなか急には得難いので、ここではまず最初の試みとして東京天文台編「理科年表」昭和五年版の「本邦のおもな火山」の表を採ることにする。これは現在の目的とはなんの関係なしに作られたものであるから、自分の勝手がきかないところに強・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・毎日午前十一時とかに東京天文台から放送される時報を受け取ってクロノメーターの時差を験するためである。 このテントから少し北に離れて住居用の長方形テントが張ってある。ここがT君と陸地測量部から派遣された二人の測夫と三人の仮の宿である。これ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・自分らはこれを天文台と名づけていたが、実は昔の射的場の玉よけの跡であったので時々砂の中から長い鉛玉を掘り出す事があった。年上の子供はこの砂山によじ登ってはすべり落ちる。時々戦争ごっこもやった。賊軍が天文台の上に軍旗を守ってい・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ 三 高架鉄道から下りてトレプトウの天文台へ行く真直な道路の傍に自分が立っている。道の両側には美しい芝生と森がある。 銅色をした太陽が今ちょうど子午線を横切っているのだが、地平線からの高度が心細いように低・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・なぜなら変光星はあるときは黒くて天文台からも見えず、あるときは蟻が言ったように赤く光って見えるからです。 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・僕水沢の天文台で見ましたがね。」「まあ、あたしも見たいわ。」「見せてあげましょう。僕実は望遠鏡を独乙のツァイスに注文してあるんです。来年の春までには来ますから来たらすぐ見せてあげましょう。」狐は思わず斯う云ってしまいました。そしてす・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・いくら難船の船乗りが星で方角を定めようたって雲で見えはしない。天文台の星の係りも今日は休みであくびをしてる。いつも星を見ているあの生意気な小学生も雨ですっかりへこたれてうちの中で絵なんか書いているんだ。お前たちが笛なんか吹かなくたって星はみ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・しかもその少部分のセメントが、どんな風につかわれているかといえば、一番ひどい例は、先頃問題となって辞職した現内閣閣僚の一人であったひとが、自分のうちの子供のためにコンクリート建十坪の天文台をこしらえているというような実例さえあります。私たち・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
出典:青空文庫