・・・ 邪宗に惑溺した日本人は波羅葦増(天界の荘厳を拝する事も、永久にないかも存じません。私はそのためにこの何日か、煩悶に煩悶を重ねて参りました。どうかあなたの下部、オルガンティノに、勇気と忍耐とを御授け下さい。――」 その時ふとオルガンティ・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・いような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知った時には、実際ヴォルテーアの謳ったように、神の声と共に渾沌は消え、闇の中に隠れた自然の奥底はその帷帳を開かれて、玲瓏たる天界が目前に現われたようなものであったろ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・静かな雨が音もなく芝生に落ちて吸い込まれているのを見ていると、ほんとうに天界の甘露を含んだ一滴一滴を、数限りもない若芽が、その葉脈の一つ一つを歓喜に波打たせながら、息もつかずに飲み干しているような気がする。 雨に曇りに、午前に午後に芝生・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・自分たちの棲んでいる地球を天界の外から見た人はないのだから、そういう地球を七巻きまくと云えば、気味悪い脈々とした連続をも感じさせよう。 今度は幸運の手紙を貰った人が警察に届けたということもあったようである。そんな手紙を貰って、しんから薄・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・としての例を挙げるとすると、この作も私は人々のいう如く感心をし、見上げた作品だと思ったが、しかし、この作品には、もっとも大切な親心のびくびくした感情というものは少しも出ていないように思われるのである。天界にはいったがためにびくつかないのなら・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫