・・・に歓声をあげていた情況は、まざまざとうつされている。天皇制の「非常時」専制があんまり非人間的で苦しく、重圧にたえることに疲れたプロレタリア作家のある部分も「自由な自意識の確立」に魅惑された。この当時の状態をよむ人は計らず太宰治の生涯と文学と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・一九四一年一月からはじまった第二回の執筆禁止は、一九四五年八月十五日、日本の侵略的な天皇制の軍事権力が無条件降伏をするまで、五年の間つづいた。 中断されたこの時期に、評論集としては、『昼夜随筆』『明日への精神』『文学の進路』などが出版さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・過去十数年の間、ひどい時期には、この赤茶色の本は、たとえ一冊でも、徳川時代の禁書のように天皇制権力の目からかくされた。そして、かくされればかくされるほど、それは人々の生活の奥へもぐり、現実によってその理論の真実をたしかめられつつ思想の底にし・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・でしょうが極東裁判で天皇が責任をもたないということを明瞭にされて大変によろこんだのは誰だったでしょう、国民はそれをよくしっている。 私達常識人からみると、これは一公人として無能力であったことを世界に証明してもらってありがたいということで・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・一方、人であって他の動物ではない天皇というものが、全く特殊な立場に固定され、その地位は世襲であり、一代にしろ華族というものが存在するのは、どういう矛盾であろうか。 更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・当時大逆事件と呼ばれたテロリストのまったく小規模な天皇制への反抗があらわれ、幸徳秋水などが死刑に処せられた。自由民権を、欽定憲法によってそらした権力は、この一つの小規模な、未熟な、社会主義思想のあらわれを、できるだけおそろしく、できるだけ悪・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・人も知る天皇主義者である林房雄は、宇野浩二というその人なりのリアリストが、その人なりのリアリズムで天皇とその周囲の雰囲気をなみの人間の目やすから観察し、描き出したのを、文学のために生活そのものをたねにする私小説作家気質と罵った。吉田健一の「・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・そのほかわれわれが考えなければならないことは、今の憲法草案には天皇は議会を解散させることができるとなっています。そうすると私共がどんなに良心的によい代議士を選んでも、たったひとりの人が議会を解散するといって、それを書いた紙をもって捧げて読め・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・大嘗会というのは、貞享四年に東山天皇の盛儀があってから、桂屋太郎兵衛の事を書いた高札の立った元文三年十一月二十三日の直前、同じ月の十九日に五十一年目に、桜町天皇が挙行したもうまで、中絶していたのである。・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・神話時代には天皇は、宇宙の主宰者たる天照大神の代表者であった。天照大神は信仰の対象であって現実的に経験のできるものでない。それは理論的に言えば一切のものの根源たる一つの理念である。この理念の代表者或いは象徴であるがゆえに神聖な権威があったの・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫