・・・あのように科学的天稟ゆたかなゲーテでさえも、ファウストの中では、自然と伝説とをこね合わせてロマンティックな描写をしているのである。ヨーロッパの過去の文学では自然が観念的な宗教や哲学的見解を語るための仲介物としてつかわれ、自然と人間とが二元的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・それは人間的な素地として、其々の専門部門への特別な天稟とともに備えている。其々の時代の制約と闘うということも共通である。苦心するのも共通である。「ロダンの言葉」という二巻の本がある。これが、ロダンの芸術を益々ふかく理解させるばかりか、後・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・貴族屋敷の天稟ゆたかな若い家庭教師としての生活の経験や失われた恋。更にパリへ勉学に出る前後の窮乏。そして出てから、キュリーとのめぐり会い、その後の妻・母・科学者としての手いっぱいな彼女の生活の明け暮れ。そこを貫いて彼女に科学上の大きい業績を・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ 今度も彼女は、自分の天稟に我ながら満足しずにはいられなかった。 もうここまで漕ぎ付ければ、後はひとりでに自分の懐に入って来るほかないいくらかの土地を思うと、優勝の戦士がやがて来る月桂冠を待つときのような心持にならざるを得なかった。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 数学のソーニャ・コレフスカヤ、物理のキュリー夫人、経済のローザ・ルクセンブルクなどは科学の世界へ踏み出した稀有な婦人の天稟の典型であるが、婦人の思想家としてのエレン・ケイなどは、今日の歴史の鏡に映るものとして眺めた場合、現実の客観的な・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・そして又、その小さい少女の彼女が、牧師を終りまで手つだわせねばおかなかった独特の人を支配してゆく力、それもやはりこの婦人の生涯をつらぬいた特徴ある一つの天稟であった。 ロンドンの住居は、当時社交界のよりぬきの人々が住んでいたメイフェアに・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・それぞれの理論がそれぞれの階級的蓄積と天稟とにしたがって、民主主義文学運動に貢献してゆくいとぐちは多種多彩であってこそ自然である。けれども、どういう門から入ろうと、それが葛のからんだ小門からであろうと、粗石がただ一つころがされた目じるしの門・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫