・・・「ママ今日私は村に行って太陽が見たい、ここは暗いんですもの」 とその小さな子が申しました。「昼過ぎになったら、太陽を拝みにつれて行ってあげますからね」 そう言えばここは、この島の海岸の高いがけの間にあって暗い所でした。おまけ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・が、その働きをぴたりと止めて、急に淋しくおそろしいように成った時、宏い宏い、心に喰い入るような空の下には、唯、物を云わない自然と、こそりともせず坐っている唖の娘とがいるばかりでした――自然は、燦き渡る太陽の光の下に、スバーは、一本の小さい樹・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・り、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹の怒、鳩の愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青葉したたり、いずかたよりぞレモンの香、やさしき人のみ住むという、太陽の国、果樹の園、あこがれ求めて、梶は・・・ 太宰治 「喝采」
・・・遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それを予言した。それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果から・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・その時雑誌『太陽』の第一号をよんだ。誌上に誰やらの作った明治小説史と、紅葉山人の短篇小説『取舵』などの掲載せられていた事を記憶している。 二月になって、もとのように神田の或中学校へ通ったが、一週間たたぬ中またわるくなって、今度は三月の末・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・それが乱れ、雑り、重なって苔の上を照らすから、林の中に居るものは琥珀の屏を繞らして間接に太陽の光りを浴びる心地である。ウィリアムは醒めて苦しく、夢に落付くという容子に見える。糸の音が再び落ちつきかけた耳朶に響く。今度は怪しき音の方へ眼をむけ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ 赤熱しない許りに焼けた、鉄デッキと、直ぐ側で熔鉱炉の蓋でも明けられたような、太陽の直射とに、「又当てられた」んだろうと、仲間の者は思った。 水夫たちは、デッキのカンカンをやっていたのだった。 丁度、デッキと同じ大きさの、熱した・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ また、草木は肥料によりて大いに長茂すといえども、ただその長茂を助くるのみにして、その生々の根本を資るところは、空気と太陽の光熱と土壌津液とにあり。空気、乾湿の度を失い、太陽の光熱、物にさえぎられ、地性、瘠せて津液足らざる者へは、たとい・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・己は人工を弄んだために太陽をも死んだ目から見、物音をも死んだ耳から聴くようになったのだ。己は何日もはっきり意識してもいず、また丸で無意識でもいず、浅い楽小さい嘆に日を送って、己の生涯は丁度半分はまだ分らず、半分はもう分らなくなって、その奥の・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・西瓜などは日表が甘いというが、外の菓物にも太陽の光線との関係が多いであろう。○くだものの鑑定 皮の青いのが酸くて、赤いのが甘いという位は誰れにもわかる。林檎のように種類の多いものは皮の色を見て味を判定することが出来ぬが、ただ緑色の交って・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫