・・・松下夫妻の故郷で行われる祝典のいきさつ、それに加わる松下夫婦の生活を語っている部分などは、作者が対象と平行して走り、或は歩きつつその光景を読者に話しているやり方であり、この作品の中で芸術的には弱い部分をなしている。 ところが、梅雄につい・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・若いカールとイエニー夫妻は、一八四三年の十一月パリに向って出発した。新婚五ヵ月のマルクス夫妻をパリで待っていたのは、歴史のどんな波瀾であったろうか。 ここに一枚の写真がある。写真には年代不詳と書かれている。カール・マルクスが薄色のズ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・うたわれている妻なるひとが、どんなにまめやかであり、自然なこころもちの婦人であるかということや、独特の夫妻としてのつながりのうちに、微妙な情愛のゆきかいのあることなどが、しみじみと感じとられます。夫婦が、たすけあって畑仕事をしたりしていると・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・ 会わない、見ない、と云うことが、何も私共が母娘であり、Aと自分とが夫妻であると云う事実に変更を与えるものではない。其那ことをし、故意に生活に強制した一点を作るより、互に理解しようと努力し、友情で団結して行く気に、どうしてなれないのかと・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・ノーベル賞を与えられた彼等は科学者として最高の名誉の席につかせられ、学界からおくられる称号、学位の数々は、まるでそういう名誉でキュリー夫妻を飾ることを怠れば、その国々の恥辱となるとでも云いそうな勢でした。もしキュリー夫妻の艱難と堅忍と努力と・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ それにまた、このように産め、殖やすことの要求されている時代であるからこそ、その一面には、今日までの優生夫妻が、いつ、どこで、どのようにして、その肉体の条件に変化をこうむらないものでもない。現に今日の日本では、おびただしい良人と妻とが、・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・それがでたらめの噂でなかった証拠には、トルーマンの当選が確認された翌五日、『朝日新聞』には、『主婦之友』が先ばしりの悲喜劇をあらわにして、特派記者による奇蹟的会見記という特報でデューイ夫妻会見記を仰々しく広告している。このでんで、『主婦之友・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・――原泉夫妻[自注18]は四谷の大木戸ハウスというアパートで細君はトムさん[自注19]の新協劇団第一回公演では「夜明け前」に巡礼をやり、今やっているゴーゴリの芝居では何をやっているか、旦那さんの方はきっと徹夜して小説かいてるでしょう。今夜見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・長者夫妻は非常な嘆きに沈んで、鷲が飛んで行ったその深山の中へ、子をさがしに分け入った。 玉王をさらった鷲は、阿波の国のらいとうの衛門の庭のびわの木に嬰児をおろして、虚空に飛び去った。衛門は子がなかったので、美しい子を授かったことを喜び、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・『吾輩は猫である』のなかに描かれている苦沙弥先生夫妻の間柄は、決して陰惨な印象を与えはしない。作者はむしろ苦沙弥夫人をいつくしみながら描いている。だから私は漱石夫妻の仲が悪いなどということを思ってもみなかったのである。実際またこの日の夫人は・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫