・・・ 私たちの日々は、きわめて畸型なやりくりの上でどうやらきょうまで廻転してきました。労働賃銀は戦前の二十七倍だのに、物価は六十五倍から七十五倍となっています。そして、政府は、日本の人民所得額は戦前の百倍と査定しているのに税率は百二十六倍に・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・ これを、先にふれた婦人作家の擡頭という現象と今日の現実のうちで綜合して見わたすとき、日本の婦人が今日にもっていた文化の畸型的な性格の両面というものが、ほうふつと浮彫りになって目の前に浮んでくるようではないだろうか。たとえばここに一人の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・日本の人が日本の在来の心に壮士風のロマンティシズムと感激とを盛って大陸にいって書いて来る文学の肉体・呼吸・体臭は大陸の文学の輪廓を出しにくいのが目下の現実であり、そこに文学としての畸形が生れている。 大石さんなどでも、書きにくさについて・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・それは、天皇そのひとの人間性さえも畸型にしたシステムであった。天皇という偶然の地位に生れ合わせた一個の人間を不幸にするシステムであり、しかもその人をその特殊地位に封鎖して、その人にその身の不幸を自覚させず、人間ばなれした日常から脱出しようと・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ さて、明治初期の明るい、しかし未熟の男女平等の社会観念は、このようにして重く暗い日本の封建の土の上に根を下して、世界各国とは全く違った畸形な実を実らし始めたのであったが、この過程に民法と刑法とは、どんな工合に、婦人というものを扱っただ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫