・・・花魁に使われてる奉公人じゃアないか。あんまりぐずぐず言おうもんなら、御内所へ断わッてやるぞ。何だろう、奉公人のくせに」「もういいじゃアないかね。新造衆なんか相手にしたッて、どうなるもんかね」 小万は上の間に来て平田の前に座ッた。・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ 気の利く、なるたけ奉公人根性のない、気の置けないものが必用である。 さきなんかは少しは千世子の望むのに近い女である。かなり気も利くし、気が置けないと云う点はこの上なしであった。 あけっぱなしで居ながら一度二度、世帯持になっただ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 特別な点に気がついてねえ、 奉公人根性をどうしたって無くさせる事は出来ませんよ、 長く奉公をすればするほど気持の悪くなる御追従と謙遜と憎らしい図々しさばかり大抵はふえるもんです。 平気で自分の躰をさいなんで笑う様になります・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・これは遠い親戚に当るので、奉公人やら客分やら分からぬ待遇を受けて、万事の手伝をしたのである。次に赤坂の堀と云う家の奥に、大小母が勤めていたので、そこへ手伝に往った。次に麻布の或る家に奉公した。次に本郷弓町の寄合衆本多帯刀の家来に、遠い親戚が・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫