・・・ 彼女の専門は、映画館やレヴュー小屋へ出入するおとなしそうな女学生や中学生をつかまえて、ゆする一手だ。 虫も殺さぬ顔をしているが、二の腕に刺青があり、それを見れば、どんな中学生もふるえ上ってしまう。女学生は勿論である。 そこをす・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・末子は女学生風の校服のまま青山の姪のうしろへ来て静かにすわった。いくらかきまりわるげに、初めてあう客に挨拶した。「これが末ちゃんですか。」と、かつみさんは涙ぐまないばかりのなつかしそうな調子で言った。「まあ、叔母さんにそっくりですこと。・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ ロシヤの医科大学の女学生が、或晩の事、何の学科やらの、高尚な講義を聞いて、下宿へ帰って見ると、卓の上にこんな手紙があった。宛名も何も書いて無い。「あなたの御関係なすってお出でになる男の事を、或る偶然の機会で承知しました。その手続はどう・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・私も既に四十ちかく、髪の毛も薄くなっていながら、二十年間の秘めたる思いなどという女学生の言葉みたいなものを、それも五十歳をとうに越えられているあなたに向って使用するのは、いかにもグロテスクで、書いている当人でさえ閉口している程なのですから、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・成熟した女学生がふたり、傘がなくて停車場から出られず困惑の様子で、それでもくつくつ笑いながら、一坪ほどの待合室の片隅できっちり品よく抱き合っていた。もし傘が一本、そのときの私にあったならば、私は死なずにすんだのかも知れない。溺れる者のわら一・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・――海ノ底デネ、青イ袴ハイタ女学生ガ昆布ノ森ノ中、岩ニ腰カケテ考エテイタソウデス、エエ、ホントニ。婦人雑誌ニ出テイタ、潜水夫タチノ座談会。ソノホカニモ水死人、サマザマノスガタデ考エテイルソウデス、白イ浴衣着タ叔父サンガ、フトコロニ石ヲ一杯イ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・ 板囲いの待合所に入ろうとして、男はまたその前に兼ねて見知り越しの女学生の立っているのをめざとくも見た。 肉づきのいい、頬の桃色の、輪郭の丸い、それはかわいい娘だ。はでな縞物に、海老茶の袴をはいて、右手に女持ちの細い蝙蝠傘、左の手に・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・その時分の研学の仲間に南ロシアから来ている女学生があって、その後一九〇三年にこの人と結婚したが数年後に離婚した。ずっと後に従妹のエルゼ・アインシュタインを迎えて幸福な家庭を作っているという事である。 一九〇一年、スイス滞在五年の後にチュ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そうしてその翌晩はまた満州から放送のラジオで奉天の女学生の唱歌というのを聞いた。これはもちろん単純なる女学生の唱歌には相違なかったが、しかし不思議に自分の中にいる日本人の臓腑にしみる何ものかを感じさせられた。それはなんと言ったらいいか、たと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この、対照のために插入されたかと思われる兵隊の行列が女学生の行列に切り換えられてからは、もうずっと最後まで男の役者は全く一人も現われない。これはたしかに珍しい映画であるに相違ない。娘たちはこの学校へいれられたが最後みんなおそろいの棒縞の制服・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫