・・・をしてゆくのですが、女学校ではピータア大帝が船大工の習業をしたというような話をよんでいるのですから、どうもデルフィの神殿だとか、破風だとか、柱頭、フィディアス等々を克服するのは容易のわざでありません。女神の衣の襞がアテネの岸を洗う波とどうな・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・の母権顛覆が起ったのは、バッハオーフェンがエスキュロスの悲劇の章句によって説明したように女神アテネが良人アガメムノンと良人の父とを殺害した母親クリテムネストラを殺して復讐した息子オレステスを無罪にしたことから由来しているというよりは、人間の・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・――アポローばりの立琴をきかせられたり、優らしい若い女神が、花束飾りをかざして舞うのを見せられたりすると、俺の熾な意気も変に沮喪する。今も、あの宮の階段を降りかけていると丸々肥って星のような眼をした天童が俺を見つけて、「もうかえゆの? 又、・・・ 宮本百合子 「対話」
慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のなかへあまくだった姿のように語られ描かれてい・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・指のそろって長い女は赤いかわのギリシャの女神のはいて居るような靴をはいて白い衣の裾をヒラヒラと切ってかるくかるく行きました。詩人はそのあとを小走りについて、その時、若しそこに人が居たならそれを何と見たでしょう。キット、古い人のかいた名画の中・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・桂の愛らしい緑や微風にそよぐプラタアネの若葉に取り巻かれた肌の美しい女神の像も彼には敵意のほかの何の情緒をも起こさせなかった。台石の回りに咲き乱れている菫や薔薇、その上にキラキラと飛び回っている蜜蜂、――これらの小さい自然の内にも、人間の手・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫