・・・右は事実か、あるいは好事家の作りたる奇話か、これを知るべからずといえども、林家に文権の帰したる事情は、推察するに足るべし。 今日は時勢もちがい、かかる奇話あるべきようもなしといえども、もしも幸にして学事会の設立もあらば、その権力は昔日の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明にして下士の首を押えんとの考を交え、その実はこれがため費用を省くにもあらず、武備を盛にするにもあらず、ただ一事無益の好事を企てたるのみ。この一条については下・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・古来、田舎にて好事なる親が、子供に漢書を読ませ、四書五経を勉強する間に浮世の事を忘れて、変人奇物の評判を成し、生涯、身を持て余したる者は、はなはだ少なからず。ひっきょう、技芸にても道徳にても、これを教うるに順序を誤り場所を誤るときは、有害無・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・それから十五歳の時には、もう魚家の少女の詩と云うものが好事者の間に写し伝えられることがあったのである。 そう云う美しい女詩人が人を殺して獄に下ったのだから、当時世間の視聴を聳動したのも無理はない。 ―――――――――・・・ 森鴎外 「魚玄機」
出典:青空文庫