・・・ 勿論、そのためには、現在の諸状態が如何程不合理なものであるかも解っている積りです。けれども私は、或る状態の裡に全く偶然な機会によって出生した一人間が、自己の道をつける為、どんな努力をするか、失敗するか、終局に於いて成し遂げ得たかと云う・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・不安定は、一般の経済状態を考えただけで、勤労と休息とのつり合が、如何程まで破れているかあきらかだと思います。これに対して、物価調節、各家庭に対する節約宣伝のような、やや消極的方面の問題、また積極的には女性の自給自立、労銀等の問題から、根本に・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・に冒涜を加えず、自分の周囲に渦巻いて居る事象に迷わされず、如何程僅かでも純粋に近い我を保って、見、聴、生きるべきではございますまいか。 C先生。私斯様な前提を置いてから、少し許り、私がこちらへ来てから「私」の感じた事を書いて行こうとして・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 余り市中から遠くない半郊外で、相当に展望もあり、本でも読める樹蔭があると同時に、小さい野菜畑や、鶏でも飼う裏庭があったら、田園生活のすきな自分は如何程よろこぶでしょう。 けれども、斯うやって、電車の音のする、古い八畳で、此を書・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ 若し右のような不文律がなければ、交際社会に出た許りの十七八の娘は、如何程危険に曝されなければならないか分りません。どんな男性が、どんな心情を抱いて接近して来るか、日本などより遙に多い危険が、女性自身の矜持で防止されているのです。 ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・そして又、其祈願が如何程失墜したとしても結局は、其祈願を捧げる私共の中に墜ちて来るのでは無いだろうか。 よきものが或場合受けなければ成らない屈辱や、苦難やを、無頓着らしく冷笑する事は冒涜である。人類の真実な希願を蹂躙する者は、其の同じ足・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・ 又たとい、如何程経済状態は良好であるにしろ、今日、そう云う階級に属すあらゆる人々が、彼等の被雇人に対して、全く彼我を忘れた愛で、十年十五年の医療費を提供すると思えるでしょうか。 死ぬにまで、苦々しい施恩と卑下に縛られなければならな・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・真実の愛もない夫婦の生活が、多く、如何程の人格的偽瞞と虚偽に満ちているかを摘発する。新たな恋愛価値の創始、人格の飛躍が、一方、色情狂めいた性的好奇心の横行とともに、今日の社会には到るところに叫ばれていると思うのである。 けれども、翻って・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般人の胸からは、如何程抜き難いものになって居るか、と云うことの反省である。 事なら事を、其自体、人間・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 我々は、一度目の経験で、斯様に、一寸でも目ぼしいと思うような貸家の広告は、如何程迅速に人々の注意を牽き、又交渉されるかを覚えて居た。 朝八時頃新聞を見、本郷から下谷の其処まで行くうちに、もう十幾人目かの人と、すっかり話が纏って仕舞・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫