・・・自分の生活を盲動だと思って、然し、人生そのものが盲動さ、と自問自答しています。二十歳の少年の分際で、これはあまり諦めがよすぎるかも知れません。……シェストフ的不安とは何であるか、僕は知りません。ジッドは『狭き門』を読んだ切りで、純情な青年の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ひとのため、たいへんつまらぬ、ひとりの肉親のため、自身を泥に埋めて、こなごなにする盲動が、なぜ私たちに、出来ないのでございましょう。それが出来たら。ゆるがぬ信仰を以てそれが、出来たら。きざな事ばかり言って居ります。軽蔑なさいませ。私は、やぶ・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ショペンハウワーと云う人は生欲の盲動的意志と云う語でこの傾向をあらわしております。まことに重宝な文句であります。私もちょっと拝借しようと思うのですが、前に述べた意識の連続以外にこんな変挺なものを建立すると、意識の連続以外に何にもないと申した・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・朋党を結び団隊を作って、権力や金力のために盲動しないという事なのです。それだからその裏面には人に知られない淋しさも潜んでいるのです。すでに党派でない以上、我は我の行くべき道を勝手に行くだけで、そうしてこれと同時に、他人の行くべき道を妨げない・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・軽々しく人と世との評する所を信じて妄動せんは余の極めて堪へる能はざる所なりしなり。然れども余は他の方面より、余の此事あるが為に老年の両親を苦しましめ、朋友に苦慮を増さしむるを思へば、自己一身の為に他者を損ふの苦痛をなすに堪へず。遂に彼女に送・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 長く尾をひいてそこから様々の問題がひき出されて来ているのは、あの一事が偶然ではなくて、そこに何かこの頃の世態人情の気の荒さ、ともかく体の力で押して行け式の盲動性などが、その底に複雑な人心の機微を包んで発動しているからだろう。 心の・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
出典:青空文庫