・・・何故と云えば一二年以前、この事件の当事者が、ある夏の夜私と差向いで、こうこう云う不思議に出遇った事があると、詳しい話をしてくれた時には、私は今でも忘れられないほど、一種の妖気とも云うべき物が、陰々として私たちのまわりを立て罩めたような気がし・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・人形使もまた真似るがごとく、ひとしくともに手まねき、ひとしくともにさしまねく、この光景怪しく凄し。妖気おのずから場に充つ。稚児二人引戻さる。画家 いい児だ。ちょっと頼まれておくれ。夫人 可愛い、お稚児さんね。画家 奥さん、爺・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・イルマという女の知恵のない肉塊のような暗い感じ、マダム・ブランシュの神巫のような妖気などもこの映画の色彩を多様にはしている。 いちばん深刻だと思われた場面は、最大速度で回る電扇と、摂氏四十度を示した寒暖計を映出したあとで、ブランシュの酒・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫