・・・と同時に悪魔もまた宗徒の精進を妨げるため、あるいは見慣れぬ黒人となり、あるいは舶来の草花となり、あるいは網代の乗物となり、しばしば同じ村々に出没した。夜昼さえ分たぬ土の牢に、みげる弥兵衛を苦しめた鼠も、実は悪魔の変化だったそうである。弥兵衛・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・「魔が妨げる、天狗の業だ――あの、尼さんか、怪しい隠士か。」大正十年四月 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・このことはたとい理想的社会が実現されたる暁においても、当為としての法則として、婦人の就職を妨げるいわれはない。婦人も男子と同じく、その天分にしたがって、社会生活の職分を分担すべきである。それによって生活の充実と向上とまた個性の発展とをはかる・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・田島の如きあか抜けた好男子の出没は、やはり彼女の営業を妨げるに違いないと、田島自身が考えているのである。 それが、いきなり、すごい美人を連れて、彼女のお店にあらわれる。「こんちは。」というあいさつさえも、よそよそしく、「きょうは女房・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・論より証拠、私たちの結婚を妨げる何物もなかった。「これが、おまえとの結婚ロマンス。すこし色艶つけて書いてみたが、もし不服あったら、その個所だけ特別に訂正してあげてもいい。」 かの白衣の妻が答えた。「これは、私ではございませぬ。」・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ それよりも困ったことには国語の相違ということが有声映画の国際的普遍性を妨げる。無声映画を「聞」いていた観客は、有声になったために聾になってしまった。 この困難を避けるにはできるだけ言語を節約するという方針が生まれる、そうして字幕と・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・用がすんだら弛緩してもいいはずの緊張が強直の状態になってそれが夜までも持続して安眠を妨げるようなことがおりおりある。このような神経の異常を治療するのにいちばん手軽な方法は、講演会場から車を飛ばしてどこかの常設映画館に入場することである。上映・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・場合によってはむしろ学者を濫用し科学の進歩を妨げるような結果になる事がないとは限らないように思う。これはよほど慎重に考えてみなければならないかなり大事な問題である。 学者の中にも科学の応用に興味を有ち、その方面に特別の天賦を具えている人・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それがために、塵は光の進行を妨げると同時にそれを他の方面に分配する役目をする。塵を含んだ空気を隔てて遠方の景色を見る時に、遠いものほどその物から来る光が減少して、その代りに途中の塵から散らされて来る空の光の割合が多くなるから、目的物がぼんや・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・……ところで日本へ帰って来ると、仕事をせよと奨励されずに、会合に出て宴会に出席して、雑誌を発刊して、演説をして、無報酬の講義をして、原稿を訂正して、仕事を妨げることに想像される有りとあらゆることをして、その時間を浪費せよと頼まれる。……そし・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
出典:青空文庫