・・・ 思うに、それは姑息である。 行きつまったブルジョア文壇の生産力を、新しいプロレタリア文学の作品が圧倒しつつある。従って文芸批評でもプロレタリア文芸批評が、もっと広汎に研究され、活溌に行われなければならないのだと思う。 真実に強・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・私は太郎の遊んでいる姿を眺め、この可愛い小僧の精神の中に、どれ丈この生温い、受身な、姑息な生活気分を打開する力がこもっているかと思います。そしてどうかこの小僧が成長する時代が活溌であって、おのずからいきいきとした雰囲気に呼吸して育つようであ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・政府そのものの命脈を保つこと、その成員の姑息な差しかえ、G・H・Qとの汲々たる妥協策。今日猶まことに壮健である財閥の七変化的存在への助力。戦時利得税、財産税についての解説一つでも真面目に聴いたらば、人民は、曖昧な日本的薄笑いを口辺に浮べては・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 序言で、ジイドはギリシアの神話までを引用して、姑息な愛の恐るべき害悪を語っている。これまでソヴェトを旅行したものが、多くの場合それぞれの既成の見解に動かされて、ソヴェトの真相を憎悪の念をもっていうか、愛情をもって虚偽を伝えるかする傾向・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ ブルジョア教育では、姑息に人生のこの興味ある時期をとり扱っている。互に性的自覚がおこる時機に、共学はやめられる。そして、数多の無智と愚劣な悲劇を起すブルジョア的性別誇張第一頁がはじまる。 ソヴェト同盟では、共学は共働という社会主義・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・自分は其を姑息に感ず。 十四日 岸博士来、左胸部浸潤 来年二月頃まで休養 〔欄外に〕○病気にかまけて居るAを見る歯がゆさ。 聖書 マンネリズム ○上役に対して。 ○パーマのこと。 二月頃 ○西村のこ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・ サロンに入選しても、マリアはますます自分の画の不満を自覚してきびしく自分を鞭撻しているのに、家族の者がマリアの体を気づかう姑息な女々しい心遣いはマリアを立腹させるばかりである。マリアの耳では目醒時計の刻む音がきこえなくなった。過去四年・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・多くの困難があり、苦痛があるにしろ、私共は、とかく姑息になり勝ちな人間の意志を超えた力で、社会革新の地盤を与えられたことを、意味深い事実として知っているのだ。 女性としての生活の上からも、本当に生活に必須なことと、そうでないこととの区別・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・と叫ぶ者は狂人をもって目せらる。姑息なる思想! 安逸に耽る教育者! 見よ汝が造れる人の世は執着を虚栄の皮に包んだる偽善の塊に過ぎぬじゃないか。要するに現代の道徳は本義として「物質的超越と霊的執着とをもって自ら処決せよ」と求む。言い変うれば「・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫