戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人姦淫等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞の流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想し・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 明治はじめの自由民権が叫ばれて、婦人がどしどし男子と等しい教育をうけ、政治演説もし、男女平等をあたり前のことと考えた頃、日本では、木村曙「婦女の鑑」、若松賤子「忘れ形見」などの作品が現れた。若い婦人としてよりよい社会を希望するこころも・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ 三 遊廓は、封建的な婦女の市場だった。徳川時代、武士と町人百姓の身分制度はきびしくて、町人からの借金で生計を保つ武士にも、斬りすて御免の権力があった。高利貸資本を蓄積して徳川中葉から経済力を充実させて来た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・『漁村』には、各県の漁業の合理化の方策がのせられていて、婦人に関する項目として、陸上の仕事はなるたけ婦人にさせること、日常生活の合理化を教え、衛生、育児の知識を授けること、女子漁民道場をこしらえて漁村婦女の先駆者たらしめることなどの案が示さ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・として意識されるものになって来ているし、そのコンプレックスは、ドイツの若い婦人に対してヒトラーの政府が利用したようなものとしてあらせてはならないし、日本軍隊の婦女暴行としてくりかえされてもならないという意識も、明瞭に意識されて来ている。した・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・町人文学と劇、浮世絵は、封建の身分制から政治的に解放され得なかった人間性が、金の前には身分なしの人身売買の世界で悲しくも主張されたわけでした。婦女奴隷の上に悲しくも粉飾された町人の自由と人間性との表示でした。 明治四十年代の荷風のデカダ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・春桃は、深い伝統の波の底にあって、しかも習俗の形に支配されきってはしまわない一個的婦女として、自覚しない独立の本能に立って見られていることも深い深い意味を感じる。あまりの貧しさ、貧しさ極った無一物から漂然とした従来の中国庶民の自由さとちがっ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・婦人雑誌の表紙や口絵が、働く女を様々に描いてのせる風潮だが、その内容は軍事美談や隣組物語のほかは大体やっぱり毛糸編物、つくろいもの、家庭療治の紹介などで、たとえば十一月の婦女界が、表紙に工場の遠景と婦人労働者の肖像をつけていて内容はというと・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・中国・朝鮮の婦女連盟、英国の主婦連盟、日本の民主婦人協議会などは、それぞれの地域の具体的な条件にたって平和と人民生活の擁護のために奮闘しはじめた。青年の国際組織もつくられた。こんにちすでに十数億の人民が平和と原子兵器禁止のために結集している・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ いわゆる世にそむき、常識による生活の平凡な規律を我から破ったものとして来ている荷風が、女というものを眺める眼も特定の調子をもっていて、良家の婦女という女の内容にあきたりないのはうなずけることであると思う。荷風の年代で周囲にあった良家の・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫