・・・「それがし、いまだ、誇る宝がござらぬによって、世に稀なる宝を都へ求めにやろうと存ずる。」人形を使っている人が、こんな事を云った。語と云い、口調と云い、間狂言を見るのと、大した変りはない。 やがて、大名が、「まず、与六を呼び出して申しつけ・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・ほどの議論者は、一人もあるまじく存ずるなり。今、事の序なれば、わが「じゃぼ」に会いし次第、南蛮の語にては「あぼくりは」とも云うべきを、あらあら下に記し置かん。 年月のほどは、さる可き用もなければ云わず。とある年の秋の夕暮、われ独り南蛮寺・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・曰く、不束なる女ども、猥に卿等の栄顧を被る、真に不思議なる御縁の段、祝着に存ずるものなり。就ては、某の日、あたかも黄道吉辰なれば、揃って方々を婿君にお迎え申すと云う。汗冷たくして独りずつ夢さむ。明くるを待ちて、相見て口を合わするに、三人符を・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ 然るにこの典型的論理に私が多少疑問あることは最遺憾に存ずる次第であります。 第一に博士の一九二〇年代に適するようにクリスト教旧神学中より抽出されました簡潔の神学はただこの語だけで見ますればこれいかにも適当であります。今日此処に集ま・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・を発見した処に存ずる。君が殆ど異性に関する知識を有せぬことを発見した処に存ずる。これは或は私の見錯りであったかも知れない。しかし私は今でも君に欺かれたとは信ぜない。 私はF君に秘密が無かったとは思わない。又君がうそを衝かなかったとは思わ・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫