・・・何故と云えば、それらを活々と描写する事は、単なる一学究たる自分にとって、到底不可能な事だからである。 が、もし読者がそれに多少の困難を感ずるとすれば、ペックがその著「ヒストリイ・オブ・スタンフォオド」の中で書いている「さまよえる猶太人」・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・思索や学究や情熱なぞをどこに置き忘れて来たのか。まるっきりの、根っからの戯作者だ。蒼黒くでらでらした大きい油顔で、鼻が、――君レニエの小説で僕はあんな鼻を読んだことがあるぞ。危険きわまる鼻。危機一髪、団子鼻に墮そうとするのを鼻のわきの深い皺・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ これはむしろ学究的の詮索に過ぎて、この句の真意には当たらないかもしれないが、こういう種類の考証も何かの参考ぐらいにはなるかもしれないと思って、これだけの事をしるしてみた。もし実際かの地方で、始終伊吹を見ている人たちの教えを受けることが・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・予想外の応用が意外な閑人的学究の骨董的探求から産出する事は珍しくない。自分は繰返して云いたい。新しい事はやがて古い事である。古い事はやがて新しい事である。 温故知新という事は科学上にも意義ある言葉である。また現代世界の科学界に対する一服・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・しかしともかくも三十年の学究生活の霞を透して顧みた昔の学生生活の想い出の中には、あるいは一九三四年の学生諸君にも多少の参考になるものがないとも限らない。 明治三十六年に大学を卒業してから今日までの学究生活の間に昔の学生時代の修業がどれだ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・このつかまえにくい頭としっぽをつかまえようというのではないが、世間にうとい一学究の書斎のガラス戸の中からながめたこの不思議な現象のスケッチを心覚えに書きとめておこうというのである。 ジャーナリズムの直訳は日々主義であり、その日その日主義・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・と名乗る国がらからすれば、内閣に一人や二人のしかるべき科学大臣がいてもよさそうであり、国防最高幹部にすぐれた科学者参謀の三四人がいても悪いことはなさそうに思えるのであるが、これも畢竟は世の中を知らぬ老学究の机上の空想に過ぎないのかもしれない・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 以上は新春の屠蘇機嫌からいささか脱線したような気味ではあるが、昨年中頻発した天災を想うにつけても、改まる年の初めの今日の日に向後百年の将来のため災害防禦に関する一学究の痴人の夢のような無理な望みを腹一杯に述べてみるのも無用ではないであ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・もしこれが可能とすれば、洋上に浮き観測所の設置ということもあながち学究の描き出した空中楼閣だとばかりは言われないであろう。五十年百年の後にはおそらく常識的になるべき種類のことではないかと想像される。 人類が進歩するに従って愛国心も大・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ 以上はただ一個の学究の私見で一つの理想に過ぎない。多数の学者ことに教育者の側から見れば不都合な点も多くあるかもしれないし、自分でも十分に意を尽さぬために誤解を生じはせぬかと思う点もあるが、ともかくも思うままを誌して大方の叱正を待つので・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫