・・・椿の花の下でしきりに羽虫を取りっこして居る二つの白いかたまりを見ながら日あたりのいい南の縁に足を投げ出して千世子は安っぽい――それでも絹の袢衿をやりながら云った。 お前がねえ、 鳩によくしてお呉れだからあげるんだよ、 だから・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ それに、すぐ目の前に江の島の、あの安っぽい棧橋側が見えて、うすきたない石がけにごみがよせて見えるので、何となし俗っぽい。 あの江の島の貝細工店の女達の様に、いやみなところがどこかある。 けれ共、松のある出島の裾まで、白い波頭が・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・ 母とmとの間にはさまれて歩きました。 安っぽい絵襖紙を見る様なギラギラした感じのする下びた町すじを母の手にすがりついて物なれない人の様に特別な感じをうけながら――。行きずりのでれついた男達は私の顔をチラッと見ては意味のわからない事・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫