・・・須臾の際に官軍敗績れぬ。水に赴きて溺死る者衆し。艫舳、廻旋することを得ず。」(日本書紀 いかなる国の歴史もその国民には必ず栄光ある歴史である。何も金将軍の伝説ばかり一粲に価する次第ではない。・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・ところが遺憾ながら、西南戦争当時、官軍を指揮した諸将軍は、これほど周密な思慮を欠いていた。そこで歴史までも『かも知れぬ』を『である』に置き換えてしまったのです。」 愈どうにも口が出せなくなった本間さんは、そこで苦しまぎれに、子供らしい最・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・しかし今度は、前の日自分が腰掛けた岩としばらく隠れた大な岩とをやや久しく見ていたが、そのあげくに突然と声張り上げて、ちとおかしな調子で、「我は官軍、我が敵は」と叫び出して山手へと進んだ。山鳴り谷答えて、いずくにか潜んでいる悪魔でも唱い返した・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・また、官軍、賊軍という言葉もある。外国には、それとぴったり合うような感じの言葉が、あまり使用せられていないように思われる。裏切り、クーデタ、そんな言葉が主として使用せられているように思われる。「ご謀叛でござる。ご謀叛でござる。」などと騒ぎま・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・賊軍が天文台の上に軍旗を守っていると官軍が攻め登る。自分もこの軍勢の中に加わるのであったが、どうしてもこの砂山の頂まで登る事ができなかった。いつもよく自分をいじめた年上の者らは苦もなく駆け上がって上から弱虫とあざける。「早く・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・自分は上野の戦争の絵を見る度びに、官軍の冠った紅白の毛甲を美しいものだと思い、そしてナポレオン帝政当時の胸甲騎兵の甲を連想する。 銀座の表通りを去って、いわゆる金春の横町を歩み、両側ともに今では古びて薄暗くなった煉瓦造りの長屋を見る・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・力を以て穏に旧政府を解き、由て以て殺人散財の禍を免かれたるその功は奇にして大なりといえども、一方より観察を下すときは、敵味方相対して未だ兵を交えず、早く自から勝算なきを悟りて謹慎するがごとき、表面には官軍に向て云々の口実ありといえども、その・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが、新撰組の残りを中心とする烏合の勢をひきいて甲陽鎮撫隊をつくり、甲州城にのり込もうと進むところを、勝沼で官軍に先手をうたれて包囲された物語である。風雲児的な近藤、土方が戦いを一・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫