・・・官吏の辞職するは政府を去るものなれども、その去るときに位階勲章を失わず、あるいは華族の如き、かつて政府の官途に入らざるも必ず位階を賜わるは、その家の栄誉を表せらるるの意ならん。されば位階勲章は、官吏が政府の職を勤むるの労に酬いるに非ずして、・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・一、私塾中は起居自由にして一物の身を束縛するなく、官途の心雲を脱却して随意に書を読み、一刻も読書に費さざるの時なく、一語も文学にわたらざるの談なし。身心流暢して苦学もまた楽しく、したがって教えしたがって学び、学業の上達すること、世人の望・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・世の士君子、あるいは官途に就く者あり、あるいは商売に従事する者あり、あるいは旅行するものあり、あるいは転宅するものあり。その際に当たり、何らの箇条を枚挙して進退を決するや。世間よく子を教うるの余暇を得んがためにとて、月給の高き官を辞したる者・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ あるいはたまたま豊に生活して多少の余財ある者もあるべしといえども、その財は、本人が教育上に授けられたる芸能を天下の殖産社会に活用して得たる財にはあらずして、幸に官途に用いられ、さしたる用もなけれども、きまりの俸給に衣食して、少々ずつそ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶の旋風に翻弄せられて、予に実に副わざる偽の幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。その頃露伴が予に謂うには、君は好んで人と議論を闘わして、ほとんど百戦百勝という有様であるが、善く泅ぐ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫