・・・たちまち道の右側に、その粘土作りの大きな家がしゃんと立って、世界裁判長官邸と看板がかかって居りました。「ご免なさい。ご免なさい。」とネネムは赤い髪を掻きながら云いました。 すると家の中からペタペタペタペタ沢山の沢山のばけものどもが出・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「どこで?」「官邸。……軍人だって」「ふーむ」 犬養暗殺のニュースは、私に重く、暗く、鋭い情勢を感じさせた。閃光のように、刑務所や警察の留置場で闘っている同志たちのこと、更に知られざる無数の革命的労働者・農民のことが思われた・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・昭和七年五月十五日に永田町の首相官邸で当時の首相であった犬養毅を射殺した一団のテロリスト将校がありました。前年にいわゆる満州事変がおこって日本の陸軍が侵略戦争へさかおとしになってゆく一歩がひらかれたときでした。そのとき、将校にとりまかれた首・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・政府の役人でしたでしょうか、官邸におさまっているえらい人でしたでしょうか。そうではありませんでした。社会主義者、共産主義者といわれて言論の自由をうばわれ牢屋にいれられていた人々です。本気で戦争に反対し、つまり私たちの婦人の幸福を守ろうとして・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
・・・ 宮城前から首相官邸前にさしかかった行進は、隊伍の中から代表を官邸へ送りこみ、秩序正しく、前進しつづけた。そして、機会もあらば、と待ちかまえていた警官を失望させたことを、新聞はいくらかからかい気味に報じている。 官邸に入った代表は、・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫