・・・ 宇宙の真、美が、すべて直線で定規で引いた様には出来て居ない。 ――○―― 自分の専門以外の事について、あまり明らからしい批評的な又、断定的な言葉を放つものではない。 大抵の時には、悪い結果のみを多く得るもの・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・口の中には沢山のバチルスをもっているというようなことは子供の時から教えられて居る、そういうスローガンが衛生教育の一つの定規になっている位だ。 * 共産青年団員は握手はしない。ピオニェルも握手しない。それで先ず・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・そういうスローガンが衛生教育の一つの定規になっている位だ。 青年共産主義同盟員は握手はしない。ピオニェールも握手しない。それで先ず第一に来ることは、恋愛の自由ということでも、家庭における婦人の地位の向上ということでも、要するに生産関係が・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・に、燦然と輝きながら、千年の地下の眠りから呼び覚まされたアフロジテの像に、静かな表情でコンパスと定規をあてて「……私は切に知りたいのですから……」と云った人の姿が尊く浮み上った。ほんとに、舌を持つほどの者は、「知りたいのです」という・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・有ったと見えて永久に苦しみのない静かな水の底に柔い藻に抱かれてしまったのだろう、秋のつめたい水の中も情ない人の世よりはあたたかいと思ったと見える……人なみよりも勝れて美くしい人は命が短いと云う昔からの定規に彼の人ももれなかった」 殿はさ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・何でも、まだ電気の燈いている時分に起き、厚い着物に蝶模様の羽織を着、前夜から揃えてあった鉛筆や定木、半紙の入った包みを持って出かけた。俥に乗り、前ばかりを見つめて大学の横から、順天堂の近くへ連れられて行ったのである。 小さな小学校の建物・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・耳に鉛筆を挾み、長い髪をした主人が、或る日、両手に厚紙の巻いたのと、鉛筆、曲尺、定規とをもってゴーリキイの居場所である台処へやって来た。「ナイフ磨きがすんだら、これを描いて御覧」 手本の紙には、沢山の窓と優美な飾のついた二階建の家の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・しかしこれはそう容易に杓子定木で決してしまわれる問題ではない。ここに病人があって死に瀕して苦しんでいる。それを救う手段は全くない。そばからその苦しむのを見ている人はどう思うであろうか。たとい教えのある人でも、どうせ死ななくてはならぬものなら・・・ 森鴎外 「高瀬舟縁起」
出典:青空文庫