・・・奥の廊下の扉のわきに「宝蔵見物のかたはここで番人をお待ちくだされたし」という張り札がしてある。その前で坊さんが二人立ち話をしている。 門を出ると外はからっ風が吹きあれていました。堂の前を右へ回ると塔へ上る階段がある。 薄暗い螺旋形の・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・な道楽をでももっていたら、煩いほど残存している寺々の建築や、そこにしまわれてある絵画や彫刻によって、どれだけ慰められ、得をしたかしれなかったが――もちろん私もそういう趣味はないことはないので、それらの宝蔵を瞥見しただけでも、多少のありがた味・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・さらにまた真理の宝蔵のように大地を圧する殿堂がある。それは人の心を甚深なる実在の奥秘に引き寄せながら、しかも恐怖を追い払う強大な力を印象する。そこには線の太い力の執拗な格闘がある。しかしすべての争闘は結局雄大な調和の内に融け込んでいる。それ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫