・・・――ただ蜥蜴の卵というものを始めて実見したのがおそらくこの数日の仕事の一番の獲物であったろうと思っている。 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 一度浅間の爆発を実見したいと思っていた念願がこれで偶然に遂げられたわけである。浅間観測所の水上理学士に聞いたところでは、この日の爆発は四月二十日の大爆発以来起こった多数の小爆発の中でその強度の等級にしてまず十番目くらいのものだそうであ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・田舎者の自分は、その時生まれて始めてヴァイオリンという楽器を実見し、始めて、その特殊な音色を聞いたのであった。これは物理教室所蔵の教授用標本としての楽器であったのである。それから自分は、全く子供のように急にこの珍しい楽器のおもちゃがほしくな・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・それで読者のうちで過去あるいは将来に類似の現象を実見された場合には、その時日、継続時間、降水の形態等についての記述を、最寄りの測候所なり気象台なり、あるいは専門家なりへ送ってやるだけの労を惜しまないようにお願いしたい。 これらの天象につ・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・あるいは田舎の風光、山村の景色等自己の実見せしものを捉え来たりて、支那的空想に耽りたる絵画界に一生面を開かんと企てたり。あるいは時間を写さんとし、あるいは一種の色彩を施さんとして苦心したり。絵画における彼の眼光はきわめて高く、到底応挙、呉春・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫