・・・これらの人々の日常が、ブルジョア的環境にありながら、実質は小市民的であって、謂われている大人の大頭の世界の中に織込まれてはいない。彼等の支配的、高等的政策にはあずかっていない。そのことが、「大人の文学」を提唱させる心理の奥に作用している。文・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ 地方文化と都会文化との分裂、地方が文化上の搾取に会うことは、民主精神が伸長して、地方における人民自治の実質が高まったとき、根底から変化させられる。 社会政治の全面に、わたしたちの健全な判断力が反映してゆくにつれて、文化に対しても私・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・とジイドの文句が引かれていても、主人公の男がいい家庭と云い、その建設のために妻を教育し扶けようとするという、その実質について全然人間生活という見地からの省察が向けられていない時、読者はどこに作者の魂の価値たるより激しき燃焼を見出すことが可能・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・境遇の事情で、いわゆる仕事として技術を身につけているひとも、これまでのように、私は職業にしてはいないのだからと、離れた心持でなく、やはりその仕事の実質で、女全体の社会にとい得る価値を高めるように押してゆくべきでしょう。女の職業と仕事との分裂・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ ラジオなどできく落語が、近頃は妙なものになって教訓落語だが、話の筋は結局ききてである働く人々の生活や文化の低さを莫迦らしく漫画化したようなものが多くていい心持はしない。実質的にはちっとも健全と云えないのである。 健全性というも・・・ 宮本百合子 「“健全性”の難しさ」
・・・人間が人間を生かし殺す力の媒介物たる金銭というものの魔術性をあらわにし、それが近代社会を支配する大怪物として蓄積されてゆく過程を明らかにして、人間性の勝利の実質、生産する者が生産を掌握することの自然さを示した社会科学者たちの業績と、それを実・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 太宰治の死に際して、受動的な形であらわれた民主的批評の実質についての危機は、つづいて一昨年の初夏、多くの文学者が、反ファシズムと戦争反対の要求にたって民主的陣営との統一的な動きにすすんで来てから、今日にまでの民主的批評家の活動にあらわ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ こういう人間性の分裂と矛盾が、現代の権力あるものの避けがたい立場だというならば、最近の百二十年たらずのうちに、権力そのものの実質がゲーテの讚えたような属性をまったく失ってしまっている事実を物語る。ゲーテは「ファウスト」第二部で、より大・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・そのための必要な文学行動はとりもなおさずジャーナリズムを支配しようとしているのと本質においてはひとしい巨大資本による挑発とたたかって理性を防衛する行動であるという実質を理解して来ている。生物学者である天皇が細菌戦に特別命令を与えたという事実・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・油絵の具は第一に不透明であって、厚みの感じや、実質が中に充ちている感じを、それ自身の内に伴なっている。日本絵の具は透明で、一種の清らかな感じと離し難くはあるが、同時にまたいかにも中の薄い、実質の乏しい感じから脱れる事ができない。次に油絵の具・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫