・・・「寛恕して頂戴よ」と、僕の胸に身を投げて来た吉弥をつき払い、僕はつッ立ちあがり、「おッ母さんにそう言ってもらおう、僕も男だから、おッ母さんに約束したことは、お前の方で筋道さえ踏んで来りゃア、必らず実行する。しかしお前の身の腐れはお前の魂・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・不馴れの者ゆえ、失礼の段多かるべしと存じられ候が、只管御寛恕御承引のほどお願い申上げます。師走九日。『大阪サロン』編輯部、高橋安二郎。なお、挿絵のサンプルとして、三画伯の花鳥図同封、御撰定のうえ、大体の図柄御指示下されば、幸甚に存上候。」・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・他の雑誌に分載されるのだったら、こんな抜書きは許すべからざる犯罪にきまっているが、三百枚いちどに単行本として出版するんだから、まあ、五、六枚のところは、笑許、なんて言葉はない、御寛恕を乞う次第だ。どうせ映画の予告篇、結果に於いては、宣伝みた・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・ こういうふうに考えて来ると世事の交渉を回避する学者や、義理の拘束から逃走する芸術家を営巣繁殖期に入った鳥の類だと思って、いくぶんの寛恕をもってこれに臨むということもできるかもしれない。 九 東京市電気局の争・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・その点については読者の寛恕を乞わなければならない次第であると思っている。ただ、最近「新万葉集」の選定が完結し、既に第一巻は出版されていることに一言ふれたい。「新万葉集」の選定されるに到った動機には、同質ならざる二様の意図が作用していたと思わ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫