・・・ この二つの寝顔を見守って彼女は目をこすりながら微笑するのでした。 宮本百合子 「二月七日」
・・・ ナポレオンの寝室では、寒水石の寝台が、ペルシャの鹿を浮かべた緋緞帳に囲まれて彼の寝顔を捧げていた。夜は更けていった。広い宮殿の廻廊からは人影が消えてただ裸像の彫刻だけが黙然と立っていた。すると、突然ナポレオンの腹の上で、彼の太い十本の・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・彼は夜ごとに燭台に火を付けると、もしかしたらこっそりこの青ざめた花屋の中へ、死の客人が訪れていはしまいかと妻の寝顔を覗き込んだ。すると、或る夜不意に妻は眼を開けて彼にいった。「あなた、私が死んだら、幸福になるわね。」 彼は黙って妻の・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫