・・・と云う無産階級者の苦悩も、現在の社会制度が現在の儘であるならば、或は免れ難い苦悩であるかも知れぬが、これはその原因を明かにして、これに対応する理想と努力さえあれば、よりよき生活や社会が生れて来ることは確実になった。即ち経済的の苦悩はお互の努・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・しかし生の真理の重要な部分はむしろ非合理的の構造を持ち、それを把握するためにはそれに対応する直観的英知によらねばならぬ。さらに生の真理の最深部は啓示によるのでないならとらえることができぬ。否それはわれわれがとらえるのでなく、とらえられるので・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・強く、世間のつきあいは、つきあい、自分は自分と、はっきり区別して置いて、ちゃんちゃん気持よく物事に対応して処理して行くほうがいいのか、または、人に悪く言われても、いつでも自分を失わず、韜晦しないで行くほうがいいのか、どっちがいいのか、わから・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ 右手と左手との運動を巧みに対応させコーオルディネートさせる呼吸がなかなかむつかしいもので、それができないと紡がれた糸は太さがそろわなくて、不規則に節くれ立った妙な滑稽なものにできそこねてしまうのである。自分など一二度試みてあきれてしま・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・この基調をなす黒斑に対応するためにいろいろの黒いものが配合されている。たとえば塗下駄や、帯や、蛇の目傘や、刀の鞘や、茶托や塗り盆などの漆黒な斑点が、適当な位置に適当な輪郭をもって置かれる事によって画面のつりあいが取れるようになっている。多数・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・これらの構図に現われた空間的幾何学的構成美の鋭敏な感覚と、それに対応すべき人間の心理的現象の確実な把握とは、要するにこれら映画の作者がすぐれた芸術家であるという平板な事実を証明するものである。芸術家でない凡庸作者がいたずらに皮相的模倣を志し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 科学的にもやはり抽象型と具象型、解析型と直観型があるが、これがやはり詩人の二つの型に対応されるべき各自に共通な因子をもっているように見える。 詩人にも科学者にもそれぞれの型について無限に多様な優劣の段階がある。要は型の問題ではなく・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・ 誤解をなくするために断っておきたいと思う事は、左に地名と対応させた外国語は要するにこじつけであって、ただある一つの可能性を示唆し、いわゆる作業仮説としての用をなすものに過ぎないという事である。また例えばアイヌ語との関係を示しても、それ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ これと同様なことは歌仙の他の部分と楽曲のこれに対応する部分についてもある度までは言われるように思う。 このような、かりに「和声的要素」とでも名づくべきものは、普通の詩歌の中にでもしいて求むればある程度までは求められないことはないか・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 判断と生きる方向とを文学的に求めてゆかず、浮世の荒波への市民的対応の同一平面において、その意味で「結婚の生態」は、今日の現実では作家が、文学をてだてとしてどんなに常識的日常性を堅めてゆくかという興味ある一典型をなしているのである。・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
出典:青空文庫