・・・火野の文章と対比的に世評に上ったが、前者が生々しい戦場の記録として多くの感銘を与えたに反して、上田広のこの小説は、同じ感銘では受け取られなかった。「鮑慶郷」に於て作者は、戦争から一つのテーマを捉え来って、それを小説に纏めるという、作者の日々・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・批判は発展的にされず、対比的にされる。ああではない、だからこう、と、一方へぐっと傾く。これまで、民衆を指導するなどと考えていたのは烏滸の沙汰である。先ず自分から民衆の一人となって、その日常の内へ入って、しかる後云々ということが、違った形での・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・漱石の作品のなかでは、偽りを未だ知らない若い女の可憐さが才走った女たちと対比的に描かれているが、人妻となっている女が、周囲と自分の偽りを捨てて本心に生きたときは「それから」の代助に対する三千代の切迫した姿となり、「門」の宗助により添う、お米・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・とその本来の一貫性に向けられている。このような態度で人生にうちかっている作者の心持が、描写の含蓄ある手法や構成における善意ある緊密さに、統一をもって滲み出しており、その面でも「贋金つくり」と対比的であると感じられる。心をとらえて真面目にする・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・男の貞操とか女の貞操とか対比的によく問題となってきている。これまで、男といえば菊池氏流に、貞操というようなものはないもの、多妻的本性によって行動するものと単純に自覚されてきているが、現代の青年ははたしてすべてが、そういう単純な生物的な一機能・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫