・・・あせらず御養生専一にねがいます。来春は東京の実家へかえって初日を拝むつもりです。その折、お逢いできればと、いささか、たのしみにして居ります。良薬の苦味、おゆるし下さい。おそらくは貴方を理解できる唯一人の四十男、無二の小市民、高橋九拝。太宰治・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 西洋近代の演劇は写実の芸風を専一にしているが、人が殺されたり撲たれたりするところは決して写実風ではない。また女を殺す場面は避けて用いないようにしてある。然るに戦後に流行する浅草のメロドラマを見ると、女の虐待される場面のないものは甚少い・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・一 女子少しく成長すれば男子に等しく体育を専一とし、怪我せぬ限りは荒き事をも許して遊戯せしむ可し。娘の子なるゆえにとて自宅に居ても衣裳に心を用い、衣裳の美なるが故に其破れ汚れんことを恐れ、自然に運動を節して自然に身体の発育を妨ぐるの弊あ・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 今度は商業学校の教育方針が変えられて、従来の個人的な儲け専一の心での商業感を新しく鋳直そうとする意図が示されている。商売というものの性質も昨今は急速に変って来ているのだし、従って明治時代に描かれたような個人の立身出世の夢や、この一二年・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ かくて、作家は教養を求めんとして机にしばりつけられたのであったが、古典作品の鑑賞に於ては或る意味でのペダンティシズムが跳梁するばかりであるし、作品の現実はその関心の中心が益々技巧専一の職人的傾向に陥り、しかもそれらについての是非の論は・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 商人は商人気質の鋭さ万能に、家を守る女性は、何はともあれ我家のやりくり専一に、それぞれ主観の利益に立った個々の生きかたを続けて来たところへ、今日は一方から謂わば純理的な方針が与えられ、しかもその純理的な算数の根本には、まだ従来の生産の・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 興亜の精神は我がちの我身専一を男に教えることではなかった筈である。 この頃の交通機関の恐ろしい混雑は、乗り降りの秩序を市民に教えるより先に、腕力、脚力、なにおッの気合を助成した。大いに猛省がいる。女は、自分の息子や良人や兄弟たちに・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・安定専一のところ。┌そうでないかと思うと┤ 三宅やす――つや子とのような親娘二人でおしゃれし 同性の 男性に対する同伴者となるようなもの└ 津田敏子と娘のようなの 本当の母娘関係少し。 京言葉「な・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・アメリカやアイルランドの小劇場は興業資本にたいして、金儲け専一でないほんとうの劇場、ほんとうの演劇をもちたいという希望をもつ人々によって創られたものでした。出版事業にひきずられっぱなしでない出版をして、たとえば、ヴァージニア・ウルフ夫妻が中・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・十五ヵ年間以上つとめると一時金なら二千円以上 年金なら一時千円で以下毎年金が下りるので、おとなしい専一。 娯楽設備一年二回観劇。改造さえよめぬ。労救に関係出来ぬ。横浜ドック 従業員二千人。ギマン政策として日給三円以上は・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
出典:青空文庫