・・・大幻術の摩登伽女には、阿難尊者さえ迷わせられた。竜樹菩薩も在俗の時には、王宮の美人を偸むために、隠形の術を修せられたそうじゃ。しかし謀叛人になった聖者は、天竺震旦本朝を問わず、ただの一人もあった事は聞かぬ。これは聞かぬのも不思議はない。女人・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・その度に堂内に安置された昔のままなる賓頭盧尊者の像を撫ぜ、幼い頃この小石川の故里で私が見馴れ聞馴れたいろいろな人たちは今頃どうしてしまったろうと、そぞろ当時の事を思い返さずにはいられない。 そもそも私に向って、母親と乳母とが話す桃太郎や・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・賓頭盧尊者の像がどれだけ尊いものか存ぜずにいたしたことと見えます。唯今では厨で僧どもの食器を洗わせております」「はあ」と言って、閭は二足三足歩いてから問うた。「それから唯今寒山とおっしゃったが、それはどういう方ですか」「寒山でござい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫