・・・女性の天賦の霊性と直観力とで、歴史と社会との文化史的向上の方向を洞察して、時代をその方向に導くように、男子を促し、鞭韃し、また自ら立ってそのために奮闘するだけの覚悟がなくてはならぬ。その覚悟はまた自ら子どもをその時代を産むための努力に鼓吹す・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・で、プロレタリアートは、現在の戦争に対しても、それが、吾々を解放へ導くものであるか、或は、吾々をなお圧迫するものであるか、その歴史的特殊性を分析することが必要である。 フランス革命は、人類の歴史に新しい時代を開いた。それからパリ・コンミ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・女は門の内側に置いてあった恐ろしい大きな竹の笠、――茶の湯者の露次に使う者を片手で男の上へかざして雪を避けながら、片手は男の手を取って謹まやかに導く。庭というでは無い小広い坪の中を一ト筋敷詰めてある石道伝いに進むと、前に当って雪に真黒く大き・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・言って、記者たちは、もうそろそろ太宰も酔って来た、この勢いの消えないうちに、浮浪者と対面させなければならぬと、いわばチャンスを逃さず、私を自動車に乗せ、上野駅に連れて行き、浮浪者の巣と言われる地下道へ導くのでした。 けれども、記者たちの・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・ この映画の頂点はヒロインが舞台で衣裳をかなぐり捨てブロンドのかつらを叩きつけて煩わしい虚偽の世界から自由な真実の天地に躍り出す場面であって、その前のすべてのストーリーはこの頂点へ導くための設計であるように見える。一九〇九年型の女優が一・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ この序曲からこの大団円に導く曲折した道程の間に、幾度となくこの同じラッパの単調なメロディと太鼓の単調なリズムが現われては消え、消えてはまた現われる。ラッパはむしろ添え物であって、太鼓の音の最も単純なリズムがこの一編のライトモチーフであ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ あまりに抽象的で特殊な少数の観客だけにしか評価されないようなものは結局映画館と撮影所とを閉鎖の運命に導く役目しか勤めない。しかし、また一方、大衆にわかりやすい常套手段をいつまでも繰り返しているのでは飽きやすい世間からやがて見捨てられる・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・また、すべての人の長所を認識して適材を適処に導く事を誤まらなかった。晩年大学蹴球部の部長をつとめていたが、部の学生達は君を名づけて「オヤジ」と云っていた。部内の世話は勿論、部員学生の一身上の心配までした。 鉄腸居士を父とし、天台道士を師・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・うねる流を傍目もふらず、舳に立って舟を導く。舟はいずくまでもと、鳥の羽に裂けたる波の合わぬ間を随う。両岸の柳は青い。 シャロットを過ぐる時、いずくともなく悲しき声が、左の岸より古き水の寂寞を破って、動かぬ波の上に響く。「うつせみの世を、・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・人を教育するとか導くとか精神的にまた道義的に働きかけてその人のためになるという事だと解釈されるとちょっと困るのです。人のためにというのは、人の言うがままにとか、欲するがままにといういわゆる卑俗の意味で、もっと手短かに述べれば人の御機嫌を取れ・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫