・・・なぜならこれからちょうど小さな根がでるころなのに西風はまだまだ吹くから幹がてこになってそれを切るのだ。けれども菊池先生はみんな除らせた。花が咲くのに支柱があっては見っともないと云うのだけれども桜が咲くにはまだ一月もその余もある。菊池先生は春・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ それかと云って、厚着をして不形恰に着ぶくれた胴の上に青い小さな顔が乗って居る此の変な様子で人の集まる処へ出掛ける気もしない。「なり」振りにかまわないとは云うもののやっぱり「女」に違いないとつくづく思われる。 こないだっから仕掛・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・これらの女はみな男よりも小股で早足に歩む、その凋れたまっすぐな体躯を薄い小さなショールで飾ってその平たい胸の上でこれをピンで留めている。みんなその頭を固く白い布で巻いて髪を引き緊めて、その上に帽子を置いている。 がたがた馬車が、跳ね返る・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・見れば太う小さなものじゃ」「あの傍じゃ、おれが、誰やらん逞ましき、敵の大将の手に衝き入ッて騎馬を三人打ち取ッたのは。その大将め、はるか対方に栗毛の逸物に騎ッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士、打ち取れ』と金切・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・次には小さな声で歌を唄った。暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障子を開けた。「坊ちゃんはいい子ですね。あのね、小母さんはまだこれから寝なくちゃならないのよ。あちらへいってらっしゃいな。いい子ね。」・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・欧州の都市においてはこのように小さな街路樹はただ新開の街にしか見ることができない。少しく立派な街ならば街路樹は風土相応の大木となっている。また大木とならなければ美しい街になることはできぬのである。街路から電線を取り除くことが不可能であるなら・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫