・・・濠に隣った牧牛舎の柵の中には親牛と小牛が四、五頭、愉快そうにからだを横にゆすってはねている。自分もなんだか嬉しくなって口笛をピュッ/\と鳴らしながら飛ぶようにして帰った。 森の絵が引出す記憶には限りがない。竪一尺横一尺五寸の粗末な額縁の・・・ 寺田寅彦 「森の絵」
・・・ふとよんだものに不思議にひきつけられ、犢がうまい草にひかれてひろい牧場の果から果へ歩くように、段々そういう種類の本をさがして読みすすんで、あるとき、ほんとに自分は文学が好きなのだった、と自分に発見する。こういう過程は、私たちのすべてが経験し・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ いろんなそんなことを考えているとき、中央公論社から出している現代世界文学叢書の一冊の「黄金の仔牛」を読んだ。これはソヴェトの諷刺小説で、以前「十二の椅子」という諷刺小説を書いたイリフ、ペトロフ合作の長篇である。ジャーナリスト出身のペト・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 退屈な時にペンペン草の満ちた牧場に座って小牛の柔かな体を抱えながらこの子の話をきくのは愉快な事の一つだ。 小さいくせになれて居るので牛の鳴声をききわけてききもしない私に、ほら又鳴いた。枯草呉れろってな。なんかと得意・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 題材とか主題の扱いかたというものより一層肉体的生活的な文章の行と行との間に湧いて、読者をうって来るそういう大陸の圧力は、アメリカ文学ばかりでなく例えば、諷刺小説「黄金の仔牛」の肌あいにも十分感じられるし、魯迅の小説にも生々しく息づいて・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・ これらの仲間の中には繩の一端へ牝牛または犢をつけて牽いてゆくものもある。牛のすぐ後ろへ続いて、妻が大きな手籠をさげて牛の尻を葉のついたままの生の木枝で鞭打きながら往く、手籠の内から雛鶏の頭か、さなくば家鴨の頭がのぞいている。これらの女・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫