・・・は四年間、オランダ、スイス、オーストリヤ、チェコ、ベルギー等を巡業し、いたるところで喝采をえた。小粒ながらも胡椒のきいたその移動演劇は、ナチスにとっては小柄な蜂のように邪魔であった。エリカは、舞台のうえにいていくたびか狙撃された。が、無事に・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 現に移動劇場の仕事は、よくこの諷刺文学の、小粒な活力を利用してわれわれに見せている。 作家がそういう小粒で便利な武器をどうしてドシドシ作れるか? ほんとに大衆と職場の動きを知らなければならないということになるのである。〔一九三一年・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・私もここに野暮にして重厚な真心をもって、×××氏がカレントに、小粒ながら真実深き評言を正面に人生に向って投げられるように希望する。〔一九二七年二月〕 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・愛のこころはこのように小粒な、しかも歳月によって磨滅することのない表現のうちにこめられているのである。涙は眼に溢れるけれども、頭は昂然と歴史の前途に向ってもたげ、愛と勇気と堅忍とをもって民主の日本を生きようとするすべての精神にとって、この一・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・ 上っ皮のかすれた様な細い声は低く平らかに赤い小さな唇からすべり出て白い小粒にそろった歯を少し見せて笑う様子は二十を越した人とは思われないほど内気らしかった。 笹原と云う姓は呼ばずに千世子はいつでも 肇さんと呼んだ。 ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ そして大変小粒にそろって居た。 京子は「云いたい事も云えないから」と云う様な顔をして、 私ももう帰らなけりゃあ、 本石町の伯父が来て居るんですから。 また上ります、失礼致しました。 千世子の何とも云いもしな・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 如何うして其那に笑うのだろう、卿等は―― 小粒な雨が、眠った湖面に玻璃玉の点ポツポツを描いても、アッハハハハと卿達は、大きな声で笑うだろう。 暗紅い稲妻が、ブラックマウンテンに燃立っても、水に跳び込む卿等は同じ筏から。・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫