・・・私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ひどく小規模な感じがした。さらに山路を歩き、時々立ちどまって、日本海を望見した。ずんずん登った。寒くなって来た。いそいで下山した。また、まちを歩いた。やたらに土産物を買った。少しも気持が、はずまない。 これでよいのかも知れぬ。私は、とう・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・そのほんとうの原因的機巧はまだよくわからないが、要するに物理的には全くただ小規模の地震であって、それが小局部にかつ多くは地殻表層に近く起こるというに過ぎないであろうと判断される。 もし「孕のジャン」として知られた記録どおりの現象が、実際・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・このような実例の小規模なものは従来小さな映画館の火事の場合に記録されている。しかし人数の桁数のちがうデパートであったらはたしてどうであろう。 これに処する根本的対策としては小学校教育ならびに家庭教育において児童の感受性ゆたかなる頭脳に、・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・都市というものの発達するに恰好な条件を具えていて、しかもそれが極めて小規模な地形であるのは面白いと思われた。鎌倉やまたこの平泉などのこうした地形を見ると、昔の日本の人口の少なかった程度が推測されるような気がするのである。昔のこれらの都市の面・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・しかし破壊的地震としては極めて局部的なものであって、先達ての台湾地震などとは比較にならないほど小規模なものであった。 新聞では例によって話が大きく伝えられたようである。新聞編輯者は事実の客観的真相を忠実に伝えるというよりも読者のために「・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・すなわち小規模、短週期の変化を特に注意すれば上の微分係数は決して小ならず。かくのごとき眼より見れば、実際の等温線は大小無数の波状凹凸を有しこれが寸時も止まらず蠢動せるものと考えざるべからず。かくのごとき状態を精密に予報する事はいかなる気むず・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・戦争のためにできたらしい小工場が至るところに小規模な生産をやっている。ともかくも自分の子供の時にはみんな貴重な舶来物であった品物が、ちゃんとここらのこんな見すぼらしい工場でできてきれいなラベルなどをはられて市場に出てくるのであろう。それだけ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・また関東に特別に旋風が多いかどうかはこれも充分な統計的資料がないからわからないが、小規模のいわゆる「塵旋風」は武蔵野のような平野に多いらしいから、この事も全く無根ではないかもしれない。 怪異を科学的に説明する事に対して反感をいだ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・当時日本の資本主義は小規模ながら興隆期にさしかかっていて、日本の中産階級が経済能力を増してきていた頃、福沢諭吉がいうとおり、今日のブルジョア民法としての民法改正が行われ封建差別がとりはらわれたのならば、たしかに今のままの条文を適用されるよう・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
出典:青空文庫