・・・ この、秋はまたいつも、食通大得意、というものは、木の実時なり、実り頃、実家の土産の雉、山鳥、小雀、山雀、四十雀、色どりの色羽を、ばらばらと辻に撒き、廂に散らす。ただ、魚類に至っては、金魚も目高も決して食わぬ。 最も得意なのは、も一・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・いけずな女で、確に小雀を認めたらしい。チチチチ、チュ、チュッ、すぐに掌の中に入った。「引掴んじゃ不可い、そっとそっと。」これが鶯か、かなりやだと、伝統的にも世間体にも、それ鳥籠をと、内にはないから買いに出る処だけれど、対手が、のりを舐める代・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・めくら蜘蛛、願わくば、小雀に対して、寛大であられんことを。勿論お作は、誰よりも熱心に愛読します心算、もう一言。――君に黄昏が来はじめたのだ……君は稲妻を弄んだ。あまり深く太陽を見つめすぎた。それではたまらない……めくら草紙の作者に、この言葉・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・眉の間に深い皺をよせ、血眼になって行手を見つめて駆けっているさまは餓えた熊鷹が小雀を追うようだと黒田が評した事がある。休日などにはよく縁側の日向で赤ん坊をすかしている。上衣を脱いでシャツばかりの胸に子供をシッカリ抱いて、おかしな声を出しなが・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
出典:青空文庫