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・・・一度、しかとしめて拱いた腕を解いて、やや震える手さきを、小鬢に密と触れると、喟然として面を暗うしたのであった。 日南に霜が散ったように、鬢にちらちらと白毛が見える。その時、赤蜻蛉の色の真紅なのが忘れたようにスッと下りて、尾花の下に、杭の・・・
泉鏡花
「みさごの鮨」
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・・・ お熊は四十格向で、薄痘痕があッて、小鬢に禿があッて、右の眼が曲んで、口が尖らかッて、どう見ても新造面――意地悪別製の新造面である。 二女は今まで争ッていたので、うるさがッて室を飛び出した吉里を、お熊が追いかけて来たのである。「・・・
広津柳浪
「今戸心中」