・・・村々紫に浮く昼も夜も風の音のみ我心を おとなひてあれば只うるみ勝帰りたや都の家の恋しやと たゞひたぶるに思ひ居るかな春おそきわびしき村に来て見れば 桜と小麦の世にもあるかな歌唄ひ物を書・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 幾エーカーと云う耕地に、小山の如く積みあげられた小麦の穂を眺めて、彼等は思わず誇りに胸を叩いたでしょう、その心持は察せられます。今日、彼等の社会を風靡していると云われる物質主義、精力主義、並に実利主義は、未開の而も生産力の尽くるところを知・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 馬鈴薯と小麦、米などの少しばかりの俵は反対のすみにつみかさねられて赤くなった鍬だの鎌が、ぼろぼろになった笠と一緒にその上にのっかって居る。 鶏にやる瀬戸物を砕いた石ころが「ホウサンマツ」を散(きらした様にキラキラした中にゴロンとだ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・くさるリュシアン○小麦商ボナール氏のところに部屋をもった。前には中佐侯爵が住んでいた。それを知らずにリュシアンはかわって反感をもたれてる〔欄外に〕 マクシミリアン・ラマルク 1770―1832 はナポレオン帝政時代の名将軍 七月・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・気候が青物には申し分ないが、小麦には少し湿っているとの事。 この時突然、店の庭先で太鼓がとどろいた、とんと物にかまわぬ人のほかは大方、跳り立って、戸口や窓のところに駆けて出た、口の中をもぐもぐさしたまま、手にナフキンを持ったままで。・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫