・・・当時の印刷局長得能良介は鵜飼老人と心易くしていたので、この噂を聞くと真面目になって心配し、印刷局へ自由勤めとして老人を聘して役目で縛りつけたので、結局この計画は中止となり、高橋の志道軒も頓挫してしまった。マジメに実行するツモリであったかドウ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・竹馬の友の万年博士は一躍専門学務局長という勅任官に跳上って肩で風を切る勢いであったから、公務も忙がしかったろうが、二人の間に何か衝突もあったらしく、緑雨の汚ない下宿屋には万年博士の姿が余り見えなかった。何かにつけて緑雨は万年博士を罵って、愚・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 眼鏡を掛けた、眼つきの悪い局長が、奥の部屋から出て来た。局長は疑ぐるように、うわ眼を使って、小使をじろりと見た。「誰れが出した札だって?」 局長は、小使から局員の方へそのうわ眼を移しながら云った。 小使は、局長の光っている・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・この郵便局は、死んだ母の実家で、局長さんは母の兄に当っているのです。ここに勤めてから、もうかれこれ一箇年以上になりますが、日ましに自分がくだらないものになって行くような気がして、実に困っているのです。 私があなたの小説を読みはじめたのは・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・すでにその二年前の明治四十年、十一月十五日に陸軍々医総監に任ぜられ、陸軍省医務局長に補せられている。その前年の明治三十九年に、功三級に叙せられ、金鵄勲章を授けられ、また勲二等に叙せられ、旭日重光章を授けられているのである。自重しなければなら・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・萩原君はそこの二男か三男で、今はH町の郵便局長をしているが、情深い、義理に固い人であるのは、『日記』の中にもたびたび書いてあった。その日はそこでご馳走になって、種々と小林君の話を聞き、また一面萩原君の性情をも観察した。 女たちのほうの観・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・と云って若い技師の進言を言下に退ける局長もまた珍しくはないであろう。これらの大家や局長がアイネアスの兵法を読んでいなかったおかげで電信印字機や写真放送機が完成したかもしれないのである。 三 御馳走を喰うと風邪を引く話・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・現在の映画ファンの中の堅実な分子の中から総理大臣文部大臣以下各局長が輩出する時代が来て始めて私の夢は実現されるかもしれない。しかしそういう日の来ないうちに不良映画の不良教育を受けた本当の不良が天下を溺らすようにならないとは限らない。そうなら・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・科学的な知識などは一つも持ち合わせなくても大政治家大法律家になれるし、大臣局長にも代議士にもなりうるという時代が到来した。科学的な仕事は技師技手に任せておけばよいというようなことになったのである。そうしてそれらの技術官は一国の政治の本筋に対・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上に必要な顧問となるために同局の行政的事務を免除され、もっぱら戦争の方の問題に骨を折る事になったとある。これはむしろあまり遅きに過ぎると思われるが、いったい英国の流儀としては怪しむ・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
出典:青空文庫