・・・と青年との間の関係に対する理解がはるかに局限的であった。そうしてその思想が魔語のごとく当時の青年を動かしたにもかかわらず、彼が未来の一設計者たるニイチェから分れて、その迷信の偶像を日蓮という過去の人間に発見した時、「未来の権利」たる青年の心・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・科学の知識は、極めて局限された範囲内で持っていることは確かなのだろうが、この場合、その人の全精神が、客観的な真実を愛すという科学の精神によって一貫されてはいないことも亦確だと云わざるを得ない。一寸考えると、ありそうもないこういうことが現実に・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・男に対する女の性の純潔などという局限されたものでもなかった。マグダラのマリアの物語がこのことを示している。マグダラのマリアは、迫害されながら、迫害するものの欲望のみたしてとして生きる売笑婦であった。ローマの権力に対して譲歩しない批判者であっ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・当時でも、この方法は十分科学的ということはできない、精神現象の生物的性格に局限された扱いかたであった。しかし、フロイドの精神分析は何かの形で、当時の精神苦悩を解決するように思われた。西欧の文学はその時代において一方にプロレタリア文学の道を拓・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・しかしロマノフは、題材を、ごく現象の局限されたあれこれの上において、通俗小説としてのヤマや泣かせや好奇心やで引っぱって行く。文章は卑俗で平板である。 プロレタリア文学は、本質において、ブルジョア文学におけるように、芸術的小説と通俗小説と・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 二十五年前の第一欧州戦争を、日本の一般社会は間接に小局限でしか経験しなかったから、今日の文学が経る波瀾は、極めて日本的な諸条件のうちで、しかも世界史的に高度で、経験が重大であるというばかりでなく、謂わばその重大さが初めてであるというこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・しかし、性の問題を、性に局限して理解して、だから人前に出せないとしたのが封建思想であった。きょう、性の興味や問題を、文学においても絵でも人間問題の一つのくさりとして扱わないで、性に集中して露出させて扱っているのは、とりも直さずに日本人の人間・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・従って、群集の各人は、箇性の力に明かな局限を認める事に馴れ、其の局限の此方でする活動が、結局は夢想でない今日の現実に於て最も有効である事を滲み込まされます。其で、所謂賢明な者は、相当に一般を首肯させる理論を前提として、最も安全な現状維持を主・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・史の中の最も重要な一時代として通って来た十八世紀の啓蒙時代を経ていないために、日本に流れ入った自然主義は、社会の諸現象に対する科学的分析への多極な方向へ拡大せず、男女関係の狭い範囲での露骨な性的描写に局限された文学のように当時にあっても考え・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ けれども、本当に自主的な自覚のある勤労者として、今の日本の、民主化とは皮肉悪辣に逆行している出版事情を観察した場合、働くものの鋭い見識と実力の発揮は、単純に、経営者対被雇傭者の経済問題だけに局限されているはずのものなのだろうか。自分の・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
出典:青空文庫